Case Study

「作って直す」から「考えてから作る」へ — 産業用機械メーカーの開発プロセス標準化支援

Author 木村 晃一(研修講師)

今回の事例は、「試作依存型の開発で後戻りが多発し、開発期間が長期化していた産業用機械メーカー」における開発プロセスの標準化支援です。当該企業は、設計根拠を見える化し、試作前に品質を担保できる開発体制を求めていました。機械系エンジニアがこのニーズを受け、プロセスの体系化からデザインリストの整備、フロントローディングの定着までを横断して担当しています。

機械系エンジニアは、単なる手順書ではなく、設計者が実務で使えるテンプレートと設計根拠の見える化ツールを組み立てました。設計段階で機能・根拠・リスクを精査してから試作する前倒し型の開発へ移行したことで、「物を作って直す」から「考えてから作る」への転換を実現しています。属人的な判断を排し、設計者全員が同じ基準で判断できる体制を確立しました。

目次

1. 支援先企業の概要

項目内容
業種産業用機械の生産・販売
規模社員数 約80名
地域神奈川
販売形態自社製品の直販、海外代理店経由の販売
主な顧客食品・飲料工場の生産ライン設備、専用設備を必要とする製造業

当該企業は、食品・飲料工場向けの生産ライン設備などを手がけています。開発プロセスが標準化されておらず、試作依存型の進め方が常態化していました。

2. 支援前の状況と課題

当該企業が抱えていた課題は、大きく3つの側面に整理できます。試作依存型の開発、設計根拠の属人化、そして前工程の検証不足です。

チェック体制がなく、試作依存で後戻りが多発する

設計プロセスが標準化されておらず、物を作って不具合が出れば設計変更を繰り返す試作依存型の進め方が常態化していました。チェック体制がないため、設計者ごとに思いつきで設計が進み、後戻りや再試作が多発していました。試作を重ねるほど費用がかさみ、開発期間の長期化にも直結する状態です。

設計根拠が属人化し、品質のばらつきが大きい

設計根拠が明確に整理されておらず、部品選定の理由も曖昧で、設計者の経験に依存した属人的な判断が多い状態でした。設計資料も体系化されていないため、成果物の質が設計者によって異なり、品質のばらつきが大きくなっていました。

前工程が不十分なまま試作に進む

要求仕様や機能展開といった前工程が不十分で、設計の検証ポイントが曖昧なまま試作に進むケースが多くありました。検証すべき項目が定まらないまま物を作るため、不具合が再発しやすい構造です。これらの課題により、開発効率が低下し、品質リスクと設計者間の認識不一致が継続的に生じていました。こうした状況をふまえ、開発プロセスを体系化し現場に定着させられる技術者の確保が急務となっていたのです。

3. 実施した設計・開発支援

機械系エンジニアが実施した支援内容は、以下の3点です。プロセスの体系化にとどまらず、設計根拠の見える化と前倒し型開発への転換までを通しで担当しました。

開発プロセスの標準化とチェック体制の構築

要求仕様から設計仕様、設計根拠の明確化、デザインレビュー、試作評価という一連のプロセスを体系化しました。各段階にチェックポイントを設けてルール化することで、品質を担保する仕組みを構築しています。設計者が思いつきで進めるのではなく、決められた関門を通過しながら設計を進める流れへと切り替えました。

設計根拠を明確化するデザインリストの作成と一元管理

機能ごとに設計根拠・部品選定理由・設計仕様・目標値・検証項目を整理したデザインリスト(設計仕様書)を作成しました。全設計者が参照できる共通資料として統合管理することで、判断基準を揃えています。なぜその部品を選び、何を検証すべきかが一覧で分かるため、設計者による判断のばらつきを抑えられます。

フロントローディング型の開発体制への転換

物を作って直すのではなく、設計段階で機能の明確化・設計根拠の整理・リスクの抽出を徹底し、事前に精査してから試作する前倒し型の開発へ移行しました。試作でリスクを発見するのではなく、試作前にリスクを潰す流れを、当該企業の開発体制に組み込んでいます。

4. 開発体制の整備を進めるうえで工夫したこと

機械系エンジニアが意識したのは、プロセスを「使える形」にすること、デザインリストを思考の見える化ツールにすること、そしてレビューでフロントローディングを定着させることです。

手順書ではなく、実務で使えるテンプレートにする

開発プロセスは、設計者が迷わないよう、単なる手順書ではなく実務で使えるテンプレートや記入例まで整備しました。会社に合った運用のしやすさを重視した判断です。ルールが現場で回らなければ標準化は定着しないため、使う人の手に馴染む形にすることを優先しています。

デザインリストを「設計思考の見える化」ツールにする

デザインリストを単なる資料に終わらせず、設計思考のプロセスとして見える化するツールとして活用できるよう整えました。機能を展開し、「設計根拠」「部品選定理由」「検証項目」を整理するフォーマットとして統一しています。これにより属人化を排し、設計者全員が同じ基準で判断できる体制を構築しました。

試作前レビューでフロントローディングを定着させる

試作前には必ずデザインリストを用いたレビューを実施し、未確認事項や設計根拠の曖昧さを抽出してから試作を開始する流れにしました。レビューでは、機能展開の妥当性、設計根拠の整合性、部品選定理由の妥当性を重点的に確認しています。試作後の後戻りを防ぐ関門としてレビューを機能させることで、前倒し型の開発を仕組みとして定着させました。

5. 成果と変化

今回の支援による成果は、品質・効率の向上から技術資産化まで多岐にわたります。

開発プロセス標準化による品質・効率の向上

プロセスを標準化したことで、設計の抜け漏れや判断のばらつきが大幅に減少しました。設計ミス・仕様抜けは30〜45%削減、試作後の後戻り工数は40〜60%削減しています。プロセスが統一されたことで設計者間の認識が揃い、開発期間の短縮にもつながりました。

デザインリストによる設計品質の安定化と技術資産化

デザインリストの活用により属人化が解消され、誰でも同じ基準で設計できる体制が構築されました。設計ミスは30〜40%減少、トラブルの再発率は20〜35%減少しています。設計の思考プロセスが見える化されたことで組織全体の設計品質が向上し、設計者の異動・退職時でも設計の成り立ちが明確に残るため、技術が継承される状態になりました。

フロントローディング化による後戻り工数の削減

設計段階に十分な工数をかけて設計根拠を明確にし、リスクを潰す前倒し型の開発を定着させたことで、試作依存の後戻りが大幅に減少しました。試作一発合格率は20〜35%向上、開発リードタイムは15〜25%短縮しています。「作って直す」から「考えてから作る」への転換が、開発効率と品質の両方を改善しました。

6. このような企業におすすめ

以下のような課題を抱える企業には、本支援の活用が有効です。

  • 開発プロセスが標準化されていない
  • 試作依存で後戻りが多く、開発期間が長期化している
  • 設計根拠が属人化し、品質のばらつきが大きい
  • 技術継承が難しく、設計者によって成果物の質が異なる
  • フロントローディング化を進めたい

試作依存型の開発を続けると、後戻りと再試作が積み重なり、開発期間と試作費の双方が膨らみます。設計根拠を見える化し、試作前にリスクを潰すフロントローディング型へ移行することが、品質と効率を同時に高める出発点です。弊社の開発評価支援では、産業機械・装置設計の実務経験を持つエンジニアが、プロセスの体系化からデザインリストの整備、レビュー定着まで並走します。「考えてから作る」開発へ切り替えたい企業は、ぜひ一度ご相談ください。

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