製造業のマニュアル作成で整えた手順を標準化し現場で使い続ける方法
マニュアル作成が後回しになっている製造業では、人ごとに手順が異なり、品質がばらつく現場も少なくありません。同じ手順の教え直しに時間が割かれ、本来の業務が中断される会社もあります。手順をマニュアルに残して標準化することは有効ですが、ミスが出る手順をそのまま書きおこすだけでは不十分です。
そこで本記事では、最初にマニュアル化する作業の選び方から、作成したマニュアルを現場で使い続ける工夫までを整理します。
製造業でマニュアル作成を後回しにするリスク
マニュアルの作成を後回しにしている間、手順と勘やコツは作業者の頭の中にしかありません。ここでは、その状態で現場が抱えるリスクを整理します。
手順が人ごとに違うと品質がばらつく
マニュアルが整備されていない現場では、同じ工程でも製品の品質がばらつく恐れがあります。段取りの組み方や作業の順番、確認の仕方が人ごとに違うと、仕上がりが作業者の力量次第になるからです。
当社が支援した装置メーカーでは、教育方法が統一されておらず、同じ工程でも作業者ごとに手順が異なって製品の完成度が変わっていました。マニュアル作成を後回しにすると、品質確保を作業者個人の力量に頼る状態になります。
勘やコツが退職とともに消える
マニュアルが整備されていない現場では、ベテランの勘やコツが退職とともに消える恐れがあります。何を見て良否を決めているのかが本人の頭の中にしかなく、作業順番だけを見て覚えた人には判断基準を引き継げないからです。たとえば、次のような勘どころが挙げられます。
- 設備の異音をどの段階で異常とみなすか
- 仕上がりのどこを見て手直しの要否を決めるか
- 材料のロットが変わったときに加工条件をどう振るか
退職が決まってから慌てて書きおこすと、引継ぎ時間は足りなくなる恐れがあります。勘やコツを残せないまま担い手を失わないためにも、マニュアル作成をおろそかにすることはできません。
同じ説明の繰り返しで業務が止まる
マニュアルが整備されていない現場では、同じ説明の繰り返しで業務が滞る恐れがあります。作業のやり方を尋ねる問い合わせがベテランや管理職に集まり、本来の業務が中断されるからです。
たとえば、新人が入るたびに同じ手順を口頭で教え直していると、改善や保全に充てるはずの時間が消えていきます。当社の支援先でも、「メンテナンス動画の公開で、分解・清掃の問い合わせを減らした事例」があります。
製造業でマニュアル作成を優先すべき作業
全部を一度にマニュアルにしようとすると、着手前に止まりがちです。最初に作る作業は、失敗や停止の大きさと繰り返す頻度の2つの軸で選びます。
| 判断軸 | 該当する作業 | 例 | 候補の見つけ方 |
| 不良や手戻りが続く | 同じ工程で同じ種類のミスが繰り返される作業 | 貼付の位置違い、記入漏れ | 不良報告や再作業の記録から拾う |
| 段取りのミスで止まる | 順番や設定を間違えるとやり直しになる作業 | 段取り替え、条件出し、治具のセット | 段取り替えや条件出しのやり直しの記録から拾う |
| 毎日や毎ロットで繰り返す | 1回の手間が小さくても誰もが毎日行う作業 | 始業点検、初品確認、梱包・記入 | 口頭で確認し合いながら進めている作業を書き出す |
複数の軸に当たる作業ほど、最初にマニュアルを作成する効果が大きいです。逆に、頻度が低く代替も利く作業は後回しでも構いません。候補を絞ったら、作業ミスが複数の担当者で出ているなら手順の問題、特定の担当者に偏っているなら教育で対処する問題というように、原因を切り分けてから着手するとよいでしょう。
作業ではなく技能の単位で優先順位を決めるなら、製造業の人材育成でスキルマップから優先して継承する技能を決める手順が参考になります。
手順を整えて製造業のマニュアルを作成する流れ
作業ミスが出ている手順は、今のやり方を見直すところから始めなければ、マニュアルにする意味がありません。ここでは、手順を整えてから書き、現場で承認するまでの流れを整理します。
作業を分解して勘やコツを聞き出す
作業を小さな単位に分解したうえで、間違いやすい箇所やコツが要る作業に関しては、ベテランから勘やコツを聞き出します。単純な作業は見ただけでも分かりますが、どこが間違えやすいのか、どんな加減で作業しているのかは、同じ手順の教え直しに時間が割かれ、本来の業務が中断されるベテランの手元を見ているだけでは分からないためです。
具体的には、まず、作業を手順の切れ目ごとに分けます。分割した内容ごとに、作業のコツによって仕上がりの品質に差が出る箇所を確かめます。該当する手順では、ベテランに実演してもらいながら、なぜそうするのかをその場で尋ねて記録するとよいでしょう。
聞き出し方の詳細は、製造業の技術継承で暗黙知を言語化して残す進め方で整理しています。
ミスが出る手順を直してからマニュアル化する
ミスが出ている手順は、作業の順番を変えたり治具を用意したりして作業工程を見直します。そのうえで、見直した手順を手順書に反映します。よくないやり方をそのままマニュアル化しても、業務改善にはならないためです。
書式に決まりはありませんが、よく使われるのは、1つの手順を表の1行にして手順番号・作業内容・コツ・写真を列に分ける形です。見直した手順をマニュアルにすることで、手順を整えた結果が現場の標準として残ります。
現場で試してから承認する
マニュアルに反映した手順は、現場で試してから責任者が承認します。作った本人には分かる手順でも、別の作業者が同じ結果を出せるかは試すまで分からないためです。具体的には、マニュアルだけを渡して作業してもらい、次のようなつまずきがあれば直します。
- 手が止まった箇所
- 読み方に迷った箇所
- マニュアルと違うやり方をした箇所
直した版を責任者が承認して標準とし、承認前の版は現場に流しません。承認した版を全作業者に共有し、誰が見ても同じ結果を出せる状態にするところまでが、手順を整えてマニュアルを作成する流れです。
作業別に作成する製造業のマニュアル形式
作成するマニュアルの形式を、文章・写真・動画のどれか1つのみに当てはめると、選択した形式では伝わらない内容や、更新が追いつかない作業が出てきます。ここでは、作業の性質に合わせた形式の使い分けを整理します。
文章で設定値や順番を伝える作業
温度や圧力、トルクのように設定値が明確な作業は、文章や表で伝わります。具体的には、次のような作業が当てはまります。
| 作業の例 | 手順書に書く内容 |
| 炉や乾燥機の温度設定 | 設定温度・保持時間・切り替える順番 |
| 締め付けのトルク管理 | 規定トルク・締める順番・使う工具 |
| 加工後の寸法検査 | 公差・使う測定具 |
文章や表で伝わる情報に写真や動画を無理に付けても、撮影や更新の手間が増えるばかりで、伝わりやすさは変わりません。撮影を要するマニュアル化は、文章では伝えにくい作業から優先しましょう。
写真で位置や向きを示す作業
部品の向きや位置、仕上がりの見本のように、見た目の状態を伝える作業には写真が向いています。言葉で書くと長くなるうえ、読み手によって解釈が分かれるためです。具体的には、部品を組み付ける向き・ラベル類の貼付位置・配線の取り回しなどが当てはまります。撮り方の要点は次のとおりです。
- 作業者の目線で、実際に見える向きと合わせる
- 正しい状態と間違った状態を並べて載せる
- 基準になる面や印が写真の中で分かるようにする
正しい状態と間違った状態を並べた写真があれば、初めての作業者でも迷わず作業できます。写真を基準として残しておけば、現物との見比べを作業者自身でも行えます。
動きや力加減を伝える動画が向く作業
手の動きや力加減、音や手応えで良否を見極める作業には動画が向いています。写真と文章では、動きの速さや力の入れ方、音の変化を残せないためです。具体的には、研磨で工具を当てる角度と動かし方・設備の異音の聞き分けなどが当てはまります。
動画なら実際の作業をそのまま残せ、誰に見せても同じ内容で教えられます。動きと感覚で決まる作業こそ、撮影の手間をかけて動画で残す対象です。
動画を撮影する前の設計の進め方は、製造業の動画マニュアルを撮る前の設計と現場での運用で整理しています。
作成したマニュアルを製造業で使い続ける工夫
マニュアルは完成した時点では実際の作業と合っていても、設備や部品、手順が変わるたびに不一致が生じます。生じた不一致を直さないままにしておくと、現場でマニュアルが見られなくなるのは時間の問題です。そのため、作成したマニュアルを現場で使い続けるための工夫を整理します。
手順が変わったときに誰が直すかを決めておく
手順が変わったときにマニュアルを直す担当者を、あらかじめ決めておきます。設備や部品、手順が変わった後に更新しなければ、実際の作業と合わないマニュアルだけが残るためです。更新は、工程の責任者や手順をよく知る作業者が担うのが適任です。
担当が定まっていれば、設備更新や部品変更の連絡の届く先が明確になり、変更に気付かないまま放置される事態を避けやすいのが利点です。改訂の担当を決めておくことで、内容が実際の作業と合ったマニュアルを使い続けられます。
作業場所ですぐに確認できる環境を設ける
マニュアルは、作業者が持ち場を離れずにすぐ確認できるようにします。確認に手間がかかると、分かる人に聞く方が早くなり、次第にマニュアルは開かれなくなるためです。具体的には、紙のマニュアルなら承認済みの最新版だけを作業場所に掲示します。電子データなら最新版だけを置いた共有場所を、タブレットなどの端末からその場で開けるようにします。
持ち場を離れずに最新版を確認できる環境があれば、マニュアルは現場で使い続けられるでしょう。
作成中に見えたやりにくさは改善し続ける
マニュアルの作成中に見えた作業のやりにくさは、マニュアルに書いて終わりにせず、作業改善を回し続けます。聞き取りや撮影の過程で作業工程の全体を俯瞰することで、普段は見過ごされている作業のやりにくさが表に出るためです。具体的には、次のような点が見つかるでしょう。
- 工具が使いにくい
- 置き場が狭い
- 部品の向きが見分けにくい
いずれも、マニュアルを直すだけでは解消しない点です。このような場合は、マニュアルに注意書きを足すよりも、治具や配置、部品の設計を直すほうが直接的です。見つかった問題の改善とセットにすることで、マニュアル作成は現場の不良や手戻りを減らす活動にもなり得ます。
まとめ|製造業ではマニュアル作成を機に作業の標準化まで進める
製造業のマニュアルは、作るだけでは不十分です。なぜなら、作ること自体ではなく、業務改善がマニュアル作成の本質だからです。そこで、次の要点を踏まえ、作業工程を見直したうえでマニュアル化しましょう。
- 失敗が大きく繰り返す作業から始める
- ミスが出る手順は直してからマニュアル化する
- 作業の性質に合わせて形式を選ぶ
- 作成後も更新して使い続ける
ベテランへの聞き取りや手順の整理で手が止まる場合は、外部の力も借りられます。弊社の工場・製造現場の動画マニュアル制作サービスでは、製造業の現場経験があるエンジニアが手順の整理から動画化まで支援します。
マニュアル作成を業務改善につなげる進め方に迷う際は、過去の支援事例もご覧のうえ、お気軽にご相談ください。
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