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動画マニュアルで製造業の人材教育を改善するための、撮影前の設計と運用

人手不足が続く製造業では、教える手が足りず、新人教育が後回しになっている会社も少なくありません。OJT頼みで、ベテランの時間が取られている現場もあります。人材教育に動画マニュアルを活用することは有効ですが、制作しただけでは不十分です。

そこで本記事では、最初に制作する1本の選び方から、撮った動画を現場で使い続けるための仕組みづくりまでを整理します。

目次

製造業で動画マニュアルが必要とされる背景

マニュアルとは作業の手順を記したもので、動画マニュアルはその手順と判断のポイントを映像と音声で記録したものです。ここでは、製造業で動画のマニュアルが必要とされる背景を、現場で起きている状況から整理します。

文章のみのマニュアルでは勘やコツが伝わりにくい

文章や写真の手順書だけでは、ベテランの勘やコツは伝わりにくいのが実情です。製造業の作業には、熟練者の感覚による判断に支えられ、単純には文章化できない技能が多いためです。たとえば、工具の当て方や力加減は、文字にすると「適切に」「しっかりと」といった言葉でしか言い表せませんし、適切な加工負荷かどうかを切削音で聞き分けるコツは、ベテラン本人も言葉にできません。

動画なら、手の動きや音の変化を実際の作業のまま残せます。文章と写真だけでは伝わりにくい部分を映像と音声で補うために、動画のマニュアルが必要になります。なお、技術継承が進まない構造的な原因は、製造業の技術継承が進まない原因と、暗黙知を残す進め方で整理しています。

OJT頼みだとベテランの負荷が高い

若手の教育をOJTだけに頼っていては、ベテランや中堅層の業務負荷は高まる一方です。マニュアル化されていない業務は現場で直接教えるしかなく、教える側の手が空かないからです。特に定型業務に関しては、新しい人が入るたび同じ説明を繰り返す必要があり、その間、本来の業務は止まったままとなってしまいます。

それに対して、動画マニュアルがあれば繰り返しの説明を動画に任せられるので、教育に費やす時間を削減できます。

OJTは教える人によって教育の内容がばらつきやすい

OJTでは、教える人によって教える内容や水準が異なります。言語化できていない勘やコツは、各自が自分のやり方で教えるしかないためです。たとえば、設備の異音をどの段階で異常とみなすかは、教えるベテランごとに感覚が異なることも少なくありません。

教える人による違いは、新人の作業手順や品質のばらつきとして現場に出ます。ばらつきを抑えるには、誰にでも同じ内容で教えられ、判断基準を1つにそろえられる動画マニュアルが向いています。

製造業で優先的に動画マニュアル化すべき作業

動画マニュアル化に向くのは、動かし方にコツが要るなど、文章では伝わりにくい要素を含む作業です。ここでは、製造現場で最初の1本を決めるための判断軸を示します。

判断軸該当する作業候補の見つけ方
教育頻度新人に何度も聞かれる作業(設備の起動・停止、治具のセットなど)「先月も同じ質問を受けた」作業を書き出す
影響の大きさ人によって手順が違うと不良や設備停止につながる工程(段取り替え、条件出し、良否判断など)不良・手戻り・設備停止の記録から拾う
担い手の少なさ1人しかできず、休みや退職で止まる作業スキルマップで技能が1人に集中している欄を見る

複数の判断軸に当たる作業が、最初の1本に向いています。代替が利く作業や、間違えても修正が容易な作業は後回しでも構いません。どの技能を先に残すかは、スキルマップで優先して継承する技能を決める手順でも整理しています。

動画マニュアルが製造業の現場で使われなくなる原因

動画マニュアルを制作しただけで満足してしまうと、現場で見られない動画になりがちです。ここでは、使われなくなる原因を動画の中身の問題として整理します。

見たい場面を瞬時に探せないから

作業中に見たい場面をすぐ出せない動画は、使われなくなります。たとえば工程全体を1本に通し撮りすると、作業者は該当箇所を探す手間を嫌い、わかる人から教わるほうを選ぶことが多くなるからです。このように、内容が正しくても、見たい場面にすぐたどり着けなければ教材としては機能しません。

手順を流すだけでは判断基準が伝わらないから

手順を通して撮った動画は手の動きは映しますが、それだけではベテランの判断基準は分かりません。判断の多くは本人も無意識に行っているため、普通に撮ると動作しか残らないからです。ベテランが無意識に行っている判断には、たとえば次のようなものがあります。

  • 切削音が変わったので、送りを緩めた
  • バリ取りした面を指でなで、取り残しがないか確かめた
  • 本締めの前に、部品の位置ずれがないか確認した

動きだけが分かっても、判断基準がなければ、条件が変わったときに応用が利きません。全く同じ条件なら真似できても、大きさや構成が変わるだけで役に立たなくなる動画は、現場で使われなくなります。

正しい手順だけではミスの兆候に気づけないから

正しい手順だけを映した動画では、若手は失敗の手前で止まれません。ベテランは「どうなったら失敗か」「手前でどんな兆候が出るか」を知っていますが、若手は失敗を見たことがないためです。

タップ加工を例にすると、切りくずを排出せずにねじ込み続け、手応えが重くなっても気に留めずにタップを折ってしまう、といった形です。正解の手順だけを映した動画では、どこで止まるべきかが若手に伝わりません。失敗を防ぐために役立たない動画は、現場で使われなくなります。

製造業の動画マニュアルを撮る前に決めること

撮影前に、動画の中身と完成基準にかかわることを決めておきます。先に決めておくことで、撮っただけで使われなくなる動画になることを避けられるでしょう。

動画1本に収める工程の単位

1本の動画に収める工程の範囲を先に定めます。見たい場面の検索性をよくするためには、一定範囲での区切りが必要なためです。具体的には、1本の動画には1つの工程だけを収めます。撮影自体は通し撮りでも構いませんが、どこで区切るかは撮る前に決めておき、区切りごとに作業の始まりと終わりが映るようにしましょう。

あわせて、各本の冒頭で示す次の3点も決めます。

  • 完成形(作業が終わるとどうなるか)
  • 全体像(工程全体のどこにあたるか)
  • 準備物(使う工具・治具・部品)

完成した部品や使う工具は、撮影のときに実物を用意して映しておく必要があります。冒頭で何を見せるかを撮る前に決めておけば、あとで足りない場面に気づいて撮り直すことがなくなります。

字幕やナレーションで添える良否の判断理由

動画に添える良否の判断理由を、撮る前に言葉にしておきます。良否判断は無意識に行われていることが多いため、字幕やナレーションで補う必要があるためです。具体的には、ベテランの実演を見ながら次の3つを聞き出し、箇条書きにしておきます。

  • 判断の手がかり(見る箇所、聞く音、手応え)
  • どこからがNGで、やり直しになるか
  • OKと判断した理由は何か

字幕やナレーションには、どこを見るかに加えて、なぜOKといえるかの理由まで添えます。理由が分かっていれば、条件が少し変わった作業にも応用可能です。

削らずに残すべきミスしやすい場面

やりにくい場面、ミスしやすい場面、危険な瞬間は、編集で削らずに残すと決めておきます。見栄えのよい正解だけを残すと、若手が注意すべき箇所が動画から消えるためです。

タップが折れる兆候は、回す手がいつもより重くなるという感触で、映像には映りません。そのため、動画を見ただけでは、どこからが危ない重さかが分かりません。そこで、ベテランが途中で手を止めて戻す動作を残し、「一定の回転ごとに戻して切りくずを出す」と字幕を添えます。折れたタップなど、実際に失敗した物を映すのも有効です。

統一されていない手順の整え方

人によってやり方が違う工程は、予め統一しておきます。人によって違う手順をそのまま撮ると、ある1つのやり方が標準として固定されてしまうためです。具体的には、ベテランの作業を見る中で判断に幅が出る工程を見つけたら、どのやり方を標準にするかを決めてから撮影に入ります。

このように動画化は、手順を標準化し直す機会でもあります。

若手が再現できるかという完成基準

若手が見て再現できるかどうかを、動画の完成基準に置きます。見ればわかるかどうかは、作り手ではなく受け手にしか判断できないためです。

具体的には、公開前に対象者に動画を見せて実際に作業してもらい、再現できなかった箇所を撮り足します。ベテランが見て「合っている」と思うかどうかは、完成の基準にはなりません。誰に見せて確認するかまで、撮る前に決めておきましょう。

製造業の動画マニュアルを現場に定着させる方法

動画マニュアルは、作った後の置き方と使い方で、教育や業務の改善につながるかどうかが決まります。そのため、現場で使われ続けるための仕組みを整理します。

目的の動画を見つけやすい仕組みを作る

目的の動画にすぐたどり着けるように、動画ファイルの整理の仕方を先に決めます。本数が増えてから整理すると、名前も置き場所もばらばらになり、どの作業の動画か分からなくなるためです。具体的には、次の3つを決めておきます。

整理の対象決め方の例
名前の付け方「工程名+連番」のように現場の呼び方を入れる
フォルダの分け方製品→工程→作業の順に階層を作る
一覧表工程順に並べた一覧で整理する

整理の仕方が決まっていれば、不明点が出てきた際、動画の番号と再生時間を示して質問でき、どの作業についての質問かが正確に伝わります。探す手間や質問の行き違いが少ない動画なら、現場で使われ続けるでしょう。

作業中に動画を見やすい環境を整える

作業位置から離れずに、動画を再生できる環境を整えます。事務所のPCでしか見られない動画マニュアルでは、現場では使われないためです。具体的には、現場の条件に合わせて次のように整えます。

現場の条件整え方の例
作業位置から離れられない作業台にQRコードを貼る工程ごとにタブレットを置く
騒音が大きい字幕だけでも内容が分かる構成にする
電波が届かないオフラインでも再生できる形にする

逆に、事務所に戻らないと再生できない環境では、一度は見られても日々の作業には組み込まれません。

スキルマップに習得度合いを記録する

動画マニュアルで教えた作業は、見たかどうかではなく、見た後の習得度合いをスキルマップで把握します。見ただけでは習得したとは言えず、記録がなければ教育が済んだかどうかを誰も判断できないためです。

具体的には、作業ごとに「1人でできる」「補助があればできる」といった段階を決め、公開前に行う再現の確認と同じ基準で記入します。記録が積み上がると、どの作業が1人に集中しているか、次に撮るべき作業は何かが見えてきます。

見て終わりではなく記録まで回ることで、動画マニュアルが教育の仕組みの一部になります。

製造業の動画マニュアルを作り続ける体制づくり

動画マニュアルは、1本目を作ったあとが続かないことも少なくありません。そのため、作り続けるための体制を整理します。

業務の一環として担当者を割り当てる

動画マニュアル作りを続けるには、制作を業務の一環として位置づけ、担当者を割り当てることが重要です。業務として位置づけられていない作業には責任者も時間もつかず、通常業務に押し出されて後回しになるためです。たとえば、特定社員の自主性に頼っていると、担当者の異動や繁忙で制作が止まりかねません。

具体的には、担当者を決め、マニュアル制作に費やす時間を一定程度見込んでおきます。担当者と時間を業務として確保しておけば、人の入れ替わりや繁忙期があっても制作を続けやすくなります。

社内で手が回らない工程は外部に任せる

社内担当者の時間を確保できない場合は、外部の力を借りて動画マニュアル化を進めるのが現実的です。ただし、どこまで任せられるかは依頼先によって変わります。一般の制作会社に依頼する場合、台本や撮影した動画は社内で用意し、制作会社は受け取った動画の編集だけを担うことが多いです。そのため、社内の工数はあまり減りません。

製造業の現場経験があるエンジニアなら、実演を見ながら構成を固められるため、台本がない状態からでも動画マニュアルの制作に着手できます。当社でも、台本がない状態からメンテナンス動画を制作した事例があります。

動画マニュアルの効果を見える化する

動画マニュアルの効果は、数字で見える形にしておきます。効果が見えないと、その後の工数や予算を確保しにくくなるためです。具体的には、導入前に次の3つを把握し、いまかかっている時間と費用として予算申請の根拠にします。

  • 新人1人の教育に費やされる時間
  • 繰り返し受ける問い合わせ対応の頻度
  • 作業手順のばらつきに起因する不良の件数

導入後に同じ項目を測れば、減った時間や費用がそのまま効果になります。効果の大きさは現場によって異なりますが、当社が支援した装置メーカーでは、教育時間が約80%、保守出張が約50%減りました。

まとめ|製造業の動画マニュアルの成果は設計と運用次第

動画マニュアルは、制作して終わりではありません。現場で使われ続けて業務改善につなげるためには、次の要点が必要です。

  • 効果の高い作業から制作する
  • 撮る前に動画の中身を設計する
  • 現場で使える環境を整える
  • 作り続ける体制を構築する

何から撮るかの整理や、ベテランの判断を言葉にする段階で手が止まる場合は、外部の力も借りられます。弊社の工場・製造現場の動画マニュアル制作サービスでは、製造業の現場経験があるエンジニアが構成づくりから撮影・編集、運用の設計まで支援します。

過去の支援事例とあわせて、自社で担う範囲と任せる範囲を整理する材料として、お気軽にご相談ください。

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