「なんとなく安全」を組織のしくみに変える — 設備架台設計における強度計算支援実績
設備架台の設計・製作を手がける企業では、客先から数値根拠をともなう強度計算書の提出を求められる場面が増えていました。近年の安全基準厳格化を背景に、従来の経験則だけでは対応が追いつかない局面が広がっているためです。
今回の事例は、機械系エンジニアが強度検討から自動計算書の構築までを一貫して担い、強度検討にかかる時間を従来比で約90%削減した取り組みです。「なんとなく安全」から「数値で語る安全」へと、設計判断の基盤そのものが変化しています。
1. 支援先企業の概要
| 項目 | 内容 |
| 業種 | 建築関連業(設備架台の設計・製作・設置) |
| 主な事業 | 設備架台の設計から製作、現場設置までの一貫対応 |
| 今回の支援領域 | 強度計算・計算書作成・設計標準化 |
当該企業は、現場作業にともなう設備架台の設計・製作・設置を一貫して手がけています。豊富な施工実績と現場対応力を強みとする一方、理論的な裏付け作業は社外リソースに頼る体制が続いていました。
2. 支援前の状況と課題
当該企業が抱えていた課題は、大きく3つの側面に整理できます。外部環境の変化、社内人材の不足、そして安全確保を目的とした設計が過剰となっていた可能性です。
数値根拠を求める客先の増加
安全基準の厳格化が進む近年、客先から「根拠資料としての強度計算書」の提出を求められる機会が増えています。当該企業もこの流れのなかで、経験ベースでの対応が通用しない局面に直面していました。
社内に強度計算を担える人材が不在
社内に強度計算を担える技術者が在籍しておらず、安全性の判断は担当者個人の経験に依存する形になっていました。「過去の実績から問題ないはずだ」という感覚的な判断が主流であり、客先に明確な数値根拠を示すことができない状況でした。
過剰設計の可能性
数値で安全性を検証する手段がないため、必要以上に鋼材を厚く・大きくして安全を担保する対処がとられてきました。結果として架台は重くなり、施工性が悪化していました。客先にとっては、必ずしもコストに見合わない仕様となっていた可能性があります。
3. 実施した設計・開発支援
機械系エンジニアが今回実施した支援内容は、以下の3点です。
架台・吊り具の強度計算支援
実際の使用条件(荷重・設置状況・使い方)を担当者から丁寧にヒアリングしたうえで、材料力学にもとづく強度検討を進めました。計算結果をふまえ、補強の追加や鋼材サイズの見直しなど、具体的な改善提案へとつなげています。
Excel自動計算書の構築
寸法や荷重条件を入力するだけで結果が更新される計算書を用意しました。この計算書は、複雑な計算でも四則演算ベースで担当者自身が扱えるよう設計されており、現場で頻繁に発生する寸法変更や設置位置変更にも即座に対応できます。
設置後の安全性確認
同エンジニアは、計算上の安全性確認のみにとどまらず、現場の施工状況の確認にも立ち会いました。「図面どおりに施工されているか」、「想定どおりの荷重条件になっているか」を強度計算の実施者が自らチェックすることで、現場と設計図面との不整合を防ぐ体制が整えられています。
4. 設計支援を進めるうえで工夫したこと
機械系エンジニアが意識したのは、現場の実態を起点に設計条件を組み立てることと、担当者が計算書を使いこなせる状態まで支援範囲を広げることです。
作業者の負担軽減と強度確保の両立
支援前は、安全を担保するために鋼材を大きく・厚く選定する傾向が強く、完成品の重量が増しやすい状態でした。架台の組立や搬入は現場作業者が人力で担うため、重量の増加はそのまま身体的な負担に直結します。
同エンジニアはこの課題をふまえ、可能な限り鋼材を軽量化する方針を採用しました。軽量化にともなう強度低下のリスクは事前の打ち合わせで洗い出し、必要な対策を講じています。その結果、作業者の負担軽減と構造上の安全性を両立した架台設計を実現しました。
必要十分な強度を見極め、過剰設計を防ぐ
これまでの設計では数値で安全性を検証する手段がなく、経験則をもとに鋼材を大きめ・厚めに選定するほかありませんでした。結果として架台の重量が増し、施工性の悪化を招いていた状況です。鋼材の使用量が増えた分、客先のコスト負担も膨らんでいた可能性があります。
そこで同エンジニアは、設計の前段階で必要強度を見極められるよう、進め方を改善しました。使用条件や荷重条件を担当者から詳細にヒアリングし、材料力学にもとづく検討を通じて「この架台に求められる強度はどれくらいか」を数値根拠とともに定義しています。
実態にもとづく設計条件が定まったことで、安全側への余裕を過剰に積み増す必要がなくなりました。この業務改善によって、コスト・施工性・安全性の三つを両立させる設計へと転換できています。
社内で強度検討が完結する仕組みの構築
強度計算を担える人材が在籍していない状況でも、社内で強度検討が完結する仕組みづくりを、同エンジニアは目指しました。
その手段として構築したのが、専門知識がなくても扱えるExcel計算ツールです。視覚面への工夫を加え、どの部材にどの力がかかっているかが一目でわかる計算モデルへと整理しました。最終結果は「安全かどうか」が直感的に判断できる表示としています。
計算書の理解を促進する動画サポート
計算書の作成業務は、書類を納品した時点で完了とすることもできます。しかし、同エンジニアは、担当者が計算書を使いこなせる状態まで支援をするために、計算書の解説動画を用意しました。
動画では「どこを見ればよいか」「この数値が何を意味するか」までを具体的に解説しています。これにより担当者は、後から一人でも計算書を読み解けます。解説が動画として残ることで、一度きりの説明にとどまらず、社内教育や引き継ぎの場面でも活用されています。
5. 成果と変化
今回の支援による成果は、設計作業の数値面だけでなく、現場での運用や社内の意識面にも広がっています。
数値面の成果
構築したExcel自動計算書により、強度検討にかかる時間は従来比で約90%短縮されました。強度確認が数値入力のみで完結するようになったため、設計工数全体も約30〜50%の削減となっています。さらに、現場で頻発する寸法変更にも即時対応できるようになり、再検討時間も約90%の短縮を実現しました。
現場・意識面の変化
変化は社内の判断基盤にとどまらず、対外関係や現場判断にまで広がりを見せています。
- 「なんとなく安全」から「根拠ある安全」へ
- 数値にもとづいた設計判断が、若手でも可能に
- 客先説明がスムーズになり、信頼性が向上
- 設計根拠を提示でき、受注時の安心感が増加
- 「施工できる・できない」を数値で即断可能
単に作業時間が短くなっただけでなく、設計判断の主体が個人の経験から組織共通のしくみへと変わりました。この変化こそが、現場にとっての最大の意義です。
6. このような企業におすすめ
以下のような課題を抱える企業には、本支援の活用が有効です。
- 強度計算を外注したいが、丸投げには不安がある企業
- 現場設計の属人化に悩む企業
- 安全性を数値で説明したい企業
- 急な強度計算書の提出要求に対応しきれていない企業
- 手元の計算書の妥当性を判断できない企業
強度計算書の提出要求が増えている現状は、今回の支援先企業にとどまる話ではありません。感覚的な判断から数値による判断への転換は、個々の案件対応にとどまらず、将来的な受注機会の確保にも直結するテーマといえます。